雲行きを読むのは大事、恋愛もシステム管理も

恋愛をしている時、いつもいつも相手が上機嫌だったら良いのですが、そうは行かないのが現実です。ちょっとしたことで相手の機嫌が悪くなり、喧嘩をしてしまった経験が誰でもあると思います。恋人の気持ちは変化しやすいものです。特に女性の場合は。あなたには責任が無いことで彼女が勝手に腹を立てて、それで喧嘩になったりすることもあるでしょう。でも、そんな時、彼女を怒ってはダメです。余計に喧嘩が長引くだけです。それに、どうせ数日経ったら仲直りするでしょう? だったら尚更、無駄な戦争はしないことです。
それより、相手の機嫌が悪くなってないか、そこを探ることに力を入れた方が良いでしょう。相手の気持ちの雲行きを読み、もし雨が降りそうなら何か贈り物をするなどして機嫌を良くさせる。そうすれば、無駄な喧嘩をしないで済みます。お互い、不愉快な思いをしなくて済むわけです。

 

システム管理者にも、恋人の気持ちを読むが如き能力が要求されます。すなわち、システムに害を及ぼすような何かがやって来ることを察知し、障害が発生することを未然に防ぐ能力です。そんなスーパーマンみたいなこと出来ないよ、と思われるかも知れません。でも、人間にもそれくらいのことは出来るようですよ。

 

ひとつ例をご紹介しましょう。冒頭のお話で「雲行き」という言葉を使いましたが、まさにお天気に絡んだ例をひとつ。かつて私が勤務していたお客様のオフィスは沿岸の平野部にありました。1年を通して風が強く、雲の動きも速く、天候の変化が激しい地域でした。たとえ雲が多くても晴れている時は問題ないのですが、雨の多い季節になると少し厄介なことがありました。雷雨です。
そのお客様の事業というのが高圧の電気を使うものであったため、オフィスの近くに発電所がありました。この発電所が、雷を伴う雨が降った場合、危険防止のため瞬間的に電気を止めることがあったのです。いわゆる瞬停電です。この瞬停電が起こると何が困るのか。パソコンやサーバーがリセットスイッチを押したのと同じ状態になるのです。つまり、保存していない書きかけの書類や処理中のジョブは全て白紙状態に戻ります。もちろん、無停電電源装置(UPS)を使っていれば、常に電力は供給されているので問題ありません。しかし、UPSが使われているのは主にメールやDNSなどシステムの基幹部にあるサーバーだけです。社員の机に載っているすべてのパソコンにUPSをつけるのはスペース的にも予算的にも厳しいものがあります。

 

と言うわけで、雷雨が降った時は必ずと言っていいほど瞬停電が起こり、その度に「しまった! 保存してないデータが消えた!」と頭をかかえる社員が続出することになるのです。データが消えるくらいなら、まだ被害は少ない方かも知れません。運悪く、OSの入れ替えをしていたマシンは瞬停電によりハードが壊れてしまうこともありました。そして、雷雨が去った頃、別の嵐がシステム管理者を襲います。「データが消えた! 何とかしてくれ!」、「ハードディスクが動かなくなった! 早く修理してくれ!」と電話あるいは直接我々の居る部屋に駆け込んで来て、大声で助けを求める社員が出て来るわけです。システムを管理する側は、しばらくその対応に追われます。
対応と言っても、そのほとんどはお客様への説明と壊れたハードの修理手配になります。つまり、「瞬停電によりデータが消えましたので、保存されていないデータは元に戻りません」、「瞬停電によりハードディスクが壊れましたので交換するしかありません」と説明してまわるわけです。当然、そこで文句を言うお客様もいらっしゃいます。「消えたデータを何とかしろ!」、「すぐにマシンを使いたいから早く修理しろ!」と、それはもう喚く喚く・・・。

 

さて、このような悲劇的な事態になった時に、あなたならどう対処しますか? ここでも、システム管理者の能力が大いに問われるわけです。最も良い対応は、やはり瞬停電による障害であるため、戻せないデータがあることと修理にはそれなりの時間がかかることを丁寧に説明し、御理解いただくことです。このような事態に限ったことでは無いのですが、「出来ないことは出来ない」ときっばり、そして相手が理解できるように丁寧に説明しきることは非常に重要です。
そして、それよりも更に優れた対応方法があります。つまり、「雨が降る前に備えよ」と言うことです。障害が起こってからでは遅いんです。データが消えてから、ハードが壊れてから、誰が悪いとか、何とかしろとか、無駄な言い争いをするのは悲劇としか言いようがありません。原因は確かに自然現象なので、人間の力ではどうにもなりません。ただし、最悪の事態を避ける努力は出来るはずです。つまり、雷をともなった雨を降らせる雷雨が接近し、雲行きがあやしくなって来たら、社内にアナウンスするのです。「雷雨による瞬停電が発生する可能性があります。現在、作成中のデータは速やかに保存して下さい。大切なデータはサーバーにバックアップを取って下さい。インストール作業中のマシンは可能であれば作業を中断して下さい」と言ったように。このアナウンスひとつで、多くの障害の発生とその後に起こる無駄な作業時間と労力の発生を、未然に防ぐことが出来るのです。

 

今回は雷雨を例にお話ししましたが、これに限らず、システムに害を及ぼすかも知れないものが近づいていないかどうか、常にレーダーを働かせることは、システム管理者にとって非常に重要な能力と言えます。恋人と喧嘩する前に、その原因を作らないようにする。同じように、システムに障害をもたらす原因となりそうなものは、速やかに排除する。雲行きを読むセンスが必要とされるわけです。